漫画に関心の強い人たちの間でよく挙がる話題に、
〈漫画家〉の定義は?
というのがあります。
自意識や職業プライドがかかわってきたり、さらには他者を牽制する機能まである、非常〜に気難しい話題ですね。
実際の〈漫画家〉たちはどう思っているの?
作家さんの立場や気質によっても答えは様々です。
新人時代の場合
女性中堅漫画家
男性新人漫画家
新人作家さんの場合は、謙遜している場合が多いかなと思います。特にSNSだと自分の師匠にあたるような作家さんや先輩作家さんたちが見てたりもありますし、担当編集さんが見ているのを気にして「やーやー我こそは漫画家であるぞ〜!」と名乗りにくいとかもありますしね。(「お前なんかまだ一人前の漫画家を名乗るな」みたいなこと言う先輩作家さんや編集さんもまだまだいっぱい居ますし。)
身近で一番聞いたのは「実感がないから自分で名乗るとき照れ臭くて名乗れない」というものです。私もこれが一番強くてなかなか名乗れなかったので分かります(笑)
作業分担している場合
作画のみの漫画家
漫画原作作家
作画・原作を分担している場合も色々ですね。もちろん原作担当のみの方が「漫画家」を名乗るケースもありますよ。
攻撃的利用の場合
ベテラン男性漫画家
「自分なりの定義を突きつけて同業者を牽制する」という場面で、定義が活用されるケースも、あまりいい気持ちはしませんがときどき出くわします。面と向かってこんなようなことを言われることも(多くはないですが、ときどき)あります。
自分の職業ともなると、この定義に自分の立場や性質を示す機能もついてきちゃうので、ややこしくなってしまうケースもあるのですね。
結局、〈漫画家〉の定義はないの?
雑誌でデビューしたら漫画家?
「商業雑誌でデビューしたら」と言う方も多かったですが、紙の雑誌が主流だった世代はそれで判断できても、(商業誌というカテゴライズはできない)web媒体のみのデビューも増えた近年では適用しにくいですね。ほかにも「新人賞を受賞したら」とか「一度でも漫画でお金をもらったら」とか、意見はいろいろあります。
マンガで食べられれば漫画家?
「漫画だけで食えてれば漫画家」っていう定義もありますね。でも「食えてる」っていうのも、実家の後ろ盾がある独身で子供がいない人の場合の「食えてる」と言える額と、妻子がいる一家の大黒柱の「食えてる」と言える額も全然違います。お会計の面でも、「もらった原稿料総額900万・かかった制作費800万・年間の利益が100万残った漫画家さん」と、「もらった原稿料総額500万・かかった制作費5万・年間の利益が495万残った漫画家さん」だと、「食えてる」可能性が高いのは後者ですが「原稿の需要が大きい」可能性が高いのは前者です。(個人的には「いや、どっちも漫画家でしょこれは」って思いますが。)
しかるべき機関に認められたら漫画家?
じゃあ何かの団体に所属していれば漫画家なのか!?と思って調べてみました。例えば日本漫画家協会の入会案内を読んでみましょう。
入会方法(定款より)
会員になろうとする者は、会員2名(うち理事1名)の推薦を得て、入会申込書を理事長に提出し理事会の承認を受けなければならない。ただし名誉会員に推薦された者は、入会の手続きを要せず、本人の承諾をもって会員となる者とする。
入会方法
入会申込書と資料を事務局宛お送りください。定款に基づき理事会で承認いたします。
入会申込書に必要事項をご記入の上、ご自身のご署名・ご捺印をお願いいたします。
入会申込書の紹介者欄に協会会員(内理事1名)のご署名・ご捺印をお願いいたします。
最近の作品(印刷物、または原画)を入会申込書に添えてご提出ください。
もうこれ、名誉会員に推薦されない限りは理事や会員とのパイプが無かったら詰むじゃん!というハードルの高さですから、だいたいの漫画家には関係なさそう。所属している方々は間違いなく漫画家さんだと思いますが、所属していないから漫画家ではないというわけでもないですもんね。
管理人
漫画家を自称する際は、「何用で名乗るか」で定義を
というわけで漫画業界でも一本化された基準・定義は「ない!」と言い切って差し支えなさそうだなと私は考えているので、漫画初心者の皆さんにおかれましては、ややこしいことを考えず、「いろんな漫画家さんがいるなー」ぐらいに思っているのが平和だと思います。
思いますが、それでも「漫画家の定義は?」という質問はわりと頂きます。質問者さんの属性から察するに「自分はどの段階になったら世間に対して漫画家を名乗ってもいいと思いますか?」ということもありそうなのでお答えしますね。
ずばり…、用事によリます。
「名乗りたいだけ!」っていう用事
- 「どんなの描いてるの?」など深追いされて面倒な場合もあるかも。
- 「この程度で漫画家名乗ってるの?」という厳しいジャッジに晒されてめげるかも。
- 目的が「名乗りたい」だけなら、大した利益や変化も多分ないが、深刻な実害も多分起きない。
- 有料作品を販売するなら本文のクオリティが分かりやすいように多めに試し読みエリアを設定すれば納得の上で買われていくのでトラブルは起きにくい。
- 仕事を頼まれたら自分のレベルを冷静に判断して、描けないものは事前に断れるのであればトラブルは起きにくい。
「お仕事を募集したい」っていう用事
- 「漫画家」を名乗る人が仕事を募集していると、「何を頼んでもちゃんと仕上がってくる」を想定して依頼されるのが当たり前。それに耐えられるレベルならトラブルは起きにくい。
- サンプル原稿に「マグレで上手く描けた奇跡の1枚」を使う場合は注意。あなたが特筆しない限り、依頼者が参考にするのはサンプル画像であって、あなたが「未熟な漫画初心者」であるキャリアは加味されない。相手はプロの漫画家だと思って頼んでいるから、奇跡の1枚と同レベルのものが要求されてくる。
- 業務依頼を受けるために「漫画家」を名乗るなら、サンプル原稿に納期の目安を添えたり、奇跡ではなく平時の原稿を掲示しておくことが望ましい。最初から「この人はキャリアが浅いから長い納期が必要」で合意が取れていれば問題ない。サンプルは「このレベルのものは必ず描ける」という正直な水準にしておかないと、実務で頼まれたものが同じクオリティで仕上がらなかった場合にトラブルが想定される。
- フリーランスの漫画家としてやっていきたいなら、開業届を提出し、確定申告をする必要が出てくる。納税時には収入があったかがポイント。精神論の「プロ漫画家と言えるか」は関係ない。(参考:開業届とは?知っておきたい6つの基本知識
)
「漫画家を名乗るのが夢だった!」みたいな可愛らしい気持ちのためだけに名乗るのであれば何も起きないと思いますが、インターネット上で発表の場も増えて、一昔前より「漫画でお金をもらうチャンスが誰にでもある」状態なので、業務目的も視野に入れて名乗る場合は想定しやすいトラブルはこのあたりだと思います。
肩書きの使い道次第で、どう自己アピールするのがいいか判断してくださいね。