"PENK" run by CNKIProduction

回答|漫画家デジタル制作実態調査アンケート

管理人のデジタルマンガ制作環境

デジタル漫画に関するアンケートに回答したので、せっかくですから回答の全文を掲載しておきます。
漫画制作ソフトのコミックスタジオ、クリップスタジオで知られるセルシスさんが協賛しているアンケートなので、特定のソフトに関する設問もありました。
漫画家デジタル制作実態調査アンケート(漫画家編)|マンナビ


最も近いと思うものを選択下さい。

選択:プロ漫画家(自分のマンガ制作が収入の中心)


デジタル使用状況

選択:全てデジタル


デジタルで実施されていることを簡単に記述ください。

選択:ネーム
選択:ペン入れ
選択:ベタ
選択:ホワイト
選択:効果
選択:風景
選択:スクリーントーン
選択:カラーの色つけ
その他(自由コメント:電子出版のために必要な編集作業のすべて)


メインに使用するタブレットは

選択:液晶タブレット


主に使用するツール

選択:クリスタ(CLIP STUDIO PAINT EX)
選択:コミスタ(ComicStudio)
選択:フォトショップ(Photoshop)
その他(自由コメント:Corel Painter)


デジタル制作を始めた理由はなんですか?

本当は「アナログ原理主義」と言うくらい紙の原稿にペンとインクで描きたいですし、元々は完全にアナログでやっていたのですが、コスト削減(主にスクリーントーン代と人件費)とスピードアップ、アシスタント無しで一人での制作を実現するために心を鬼にして趣味的なこだわりをすべて捨てました。


デジタル導入後の1作品(話)あたりの作業時間は?

選択:減った


デジタル制作はあなたにとってどんなメリットがありましたか?

1)年間にすると数百万円分のコスト削減になりました。
2)作業時間は、(たとえば、ですが、例としてある作風で30ページを一人でアナログで描くと平均10日ほどかかるところ)作風と被写体によりますが3〜5日ほどで仕上げることも可能になりました。
3)”下描き”という概念が無くなったのもメリットです。
4)また、最近は出版社を通さずに個人的にKDPやnoteで連載をして収入を得ているので、KDPを意識した描き出し機能があったり、フォントライセンスを取ればソフトの中で企業が処理したものと大差ない写植処理までできますし、パソコンの前で構想から出版まで完結するシンプルな働き方はデジタルならではだなと思います。

注1:ただし、全てがデジタル制作によって削減されたコストではなく、全員にデジタル機材を提供・支給できないため「以前よりアシスタントの人数が必要ない作風に切り替えたこと」による削減も含まれます。
注2:作品・作風により削減になった額面が異なるため明確な額は提示していません。
注3:「描き切るために300万〜2千万程度の画材と人件費がかかる作風を基準として、200〜500万円程度の削減になった計算」みたいな話なので、デジタル化したからと言って経費が0になるわけではないので、他の作家さんに発注する際はこの記事を「デジタルは制作費が安いはず」のソースには絶対にしないでください。
注4:「日数を短縮して仕上げること可能になりました」です。結局描く部分はあるので、被写体の内容や条件によっては必ず短縮できるわけではありません。また、デジタルのほうが時間がかかる(だからと言ってアナログで作った素材をデジタル化して取り込むほうが早いというわけではない)ものもあるため、すべてに於いてデジタルが優勢・簡単・低コストを保証できる言説だとは思わないでください。他の作家さんに発注する際、「パソコンだから(なんでも)すぐでしょ?」という偏見で打ち合わせをしないようにしてください。全て、一例です。


デジタル制作はあなたにとってデメリットはありましたか?

1)機械の設定で線が決まるものなので、紙とペンのような手癖や手加減がダイレクトに出る調整ができなくて、納得のいく仕上がりになりません。(ただこれは作者本人が気にしているだけで、読者さんに届くクオリティには影響がないので、業務には一切、支障はありません。)
2)日中、陽の光がある時間帯でも停電してしまったら何の作業もできなくてリスクを感じたり、家や作業場に他の人がいる場合、特に冬場などは暖房やドライヤーやレンジと鉢合わせると保存前に停電して落ちるような恐ろしいことがあります。
3)また、機械の故障に命運を握られることになるので、リスクに備える必要があります。
4)パソコン・タブレット・ソフトウェア・バックアップ環境がそれぞれ別のメーカーなので、どこかが他を振り落とすアップデートをしてしまうと快適だった環境が簡単に崩れることも常々の気掛かりです。
5)(これは精神論なので業務への実害はそれほど大きくありませんが、)アナログと違い「引き返せる」「加筆修正が簡単」というデジタル漬けの感覚に慣れてしまったので、アナログ一本でやっていた頃より、描く時の度胸(この絵で決めた!という感じ)がなくなり、描き直しが増えたり、生でアナログ絵を描くイベントに出演する時などに緊張するようになってしまいました。
6)特にトーンなどですが、カッターでドットを弾いていた頃と違って、トーン一つボカすにしても自分の作風よりも「作画ソフトの画風」が強く出てしまう処理もあるので、”自分の絵”として成立させるまでが少し難儀でした。
7)これは私ではありませんが、他の作家さんの現場では、デジタルでは上手いけどアナログでは描けないというアシスタントさんが増えたため、機械の不調でアナログ作画を頼んだら何一つ描けず、「電気が通らなくなったら画力が終わり」「機械が壊れたら画力が終わり」というデジタルネイティブが居る、なんていうデメリットをたまに聞きます。
8)逆に、アナログ一筋のアシスタントさんが現場のデジタル化についていけず、だからと言ってクビにするわけにもいかず、効率化のためにデジタル化したのに余計に人手が必要になったという本末転倒なケースもあったので、環境要因型のデメリットは様々なケースがあるように感じます。
9)一長一短の話ですが、液晶タブレットやパソコンまで含めると初期投資が大きいので、長期的に見ると経済的でも一時的に金銭的な打撃は大きかったです。


もともとデジタル(PCやネット)は好きor得意でしたか?(もっとも近いほう)

選択:可もなく不可もない


デジタルを取り入れるにあたり、工夫したことはありますか?苦手だった方は、どのように苦手を克服しましたか?

技術的な苦手はなく、好みの問題の苦手意識だったので、紙の原稿への愛着にズルズル未練を引きずらないために、コスト削減と時間短縮に向けて一直線、いっきにフルデジタル化する、という切り替え方で引き返せない環境を作ることで克服しました。 精神的な工夫をしただけで、あとは特別なことはしていません。


現在コミスタメインの方、クリスタに移行しない理由があれば教えてください。

(※現在はクリスタに移行済みですが、心当たりがあるので一応回答します。) 結構コミスタからの移行を渋っていたほうです。 移行しなかった理由は、単に連載の途中で忙しく、コミスタの時と同じ原稿を自分がすぐ作れるようになるか不安があったからです。(クリスタは単体ソフトとしての機能だけでなく、シリーズのプラットフォームとして刷新されたことが強調されて宣伝されたので、魅力は感じるものの、覚えることが多そうで、パッと環境を変えられませんでした。) また、「移行した時の不便」があると皆さん口にしたくなるものだと思うのですが、ついつい褒め言葉より不服の口数のほうが多いだろうことを踏まえずSNSの声を見て「やっぱり移行しないほうがいいのかな?」と思って悩んでしまったのも大きかったように思います。 実際の使用感がもっとリアルに分かる特集記事やキャンペーンでもあれば思い切れたかな、と思います。 また、コミスタを買ってそれほど経っていなかったのと、乗り換えるにあたってのコストがどの程度必要なのか・または必要無いのかという情報は自ら調べない限り自然にはリーチしてこないので、コミスタへの投資を回収できた感触を得るまでに乗り換えてしまうと損をした気分になるかも、というのもあったように思います。コミスタのために別売りのマクソンやデリーターのスクリーントーンのディスク版を買ってしまったのもあったので、「これも無駄になるのかな?」など、連載の合間に情報を集めるのもなかなか捗らずに二の足を踏んだ記憶があります。


コミスタからクリスタへ移行した方は感想を教えてください

「慣れちゃえば、素晴らしい」の一言に尽きます。


デジタル制作について判らないことがある場合は、どうしていますか?

セルシスさんは公式のサポートが充実しているので、ソフトの操作であればまずは公式のサポートページを洗って、それでも見つからなければSNSを含めたネット検索をします。 コツや裏技的な使い方や活用法はSNSやネット検索、またはTwitterで質問を拡散してもらって善意の方に教えて頂く場合もあります。 人(対面・電話・メールなど)よりもネットに既にある情報を頼るほうが作業を中断せず座ったまま即座に疑問を解消できる可能性が高いので、電話や対面やネット経由で人に聞くことは稀です。既に誰かが投稿した情報を漁り尽くしてもどうしようもなければダメ元で誰かに連絡を取ることもありますが、そこまで探し尽くして存在しなかった答えを身近な人が持っていることもなかなか無いと思うので、大抵の場合はネットを探し尽くしたあたりで諦めます。 本を読むのは、導入後に触ってみて、「これは直感操作とネット検索だけじゃ使えないから基礎からやらなきゃ」と思った場合のみです。コミスタの時は、少し触ってみてから指南書を購入しました。クリスタでは本は読んでいません。


デジタル制作について感じている課題があれば教えてください

データのバックアップ等は制作に限らず日常生活でプライベートで使うガジェットなどでも当たり前に行うことなので特に気にしていませんが、ソフトウェアのバージョンアップやリニューアルにどこまでついていけるだろうか、という不安が常にあります。 だからと言って、「何も変えるな!」とは思わないのですし、これについていかなければそもそもソフトが正確に扱えないわけですから、アンテナを張り続けようとは思っています。 デジタルが不得意な、特に私より上の世代(子供のうちからパソコンを触っていない世代)の作家さんのクリスタ導入・コミスタからクリスタへの移行の手伝いや相談は多いので、「ついていけるか分からない」という不安を感じている人は多いのかなと思います。


回答は2017年3月時点のものです。